2023年度の教育人間学演習Ⅰ・Ⅱでは、ゼミの3回生とM1を中心に、宮崎駿氏の原作・脚本・監督であるアニメーション映画「千と千尋の神隠し」(2001年公開)を教育人間学の観点から探究的に分析しています(しばしば、4回生やM2も参加します)。
4月21日の臨床教育学実験実習では、映画の前半を少しずつ見ながら、たくさんの問いを立てました。「なぜ、主人公は『千尋』という名前だったのか」「なぜ、蛙の石像がたくさん出てくるのか?/油屋の男性従業員はなぜ蛙顔なのか?」「油屋の女性従業員はなぜ「おたふく」顔なのか?」「油屋はなぜ「湯屋」ではなく「油屋」なのか?」など、前半だけでも、数えきれないほどの問いが立ちました。ゼミ全員で協力しながらこれらの問いを紐解くなかで、「不条理」の物語(を子どもに語ること)の教育人間学的意味を考察します。
4月26日の教育人間学演習Ⅰでは、映画の後半についても、少しずつ見ながら、たくさんの問いを立てました。
5月10日の教育人間学演習Ⅰでは、映画のラストについて、同じように問いを立てました。また、これまで立てた問いを関連づける作業も同時に進めました。
5月17日の教育人間学演習Ⅰでは、2つの班に分かれて、それぞれに今後、解明したい中心的な問いを立てました。「探究」の始まりです。それぞれの班が立てた問いについて、班をこえて質問やコメントを交わしました。立てられた問いは、次の通りです。 ①きれいなもの/きたないもの という対比を強調して描く意味は何か? ②(カオナシを始めとして)ものや人を自分の内にとりこむ(食べる)ことが特徴的・印象的に描かれているが、それは何を象徴しているのか? 5月24日からは、これらの中心的な問いについて「探究」を深めていきます。
5月24日・31日、6月6日、13日、20日の教育人間学演習Ⅰでは、2つの班に分かれて「探究」を進めています。上記①の問いを探究する班は、「千と千尋の神隠し」の映像をもういちど丹念に観なおして分析しています(「観察」です)。「きれい・きたない」の対比が、映画のどの場面で、どのような登場人物や背景やセリフとともに描かれているのかをリサーチしています。他方、上記②の問いを探究する班は、「千と千尋の神隠し(とその関連概念)」および「食べる(とその類義語)」にかかわる先行研究をリサーチしています。6月6日からは、リサーチしながら、班のメンバーどうしの議論も始まりました。議論の痕跡が、研究室のそこここに残っています(下の写真を参照)。13日には、映像分析グループ(①の問いのグループ)が、人間の世界と神・自然の世界の入り口/出口の変化を見つけました。②の問いのグループは、「苦団子」の機能について考察を深めています。20日には、①②の問いのグループそれぞれに、「きれい/きたない」「食べるという欲望」について分析する仮の理論的枠組みを作成しました。
6月28日からは、上記①の問いを考察する班が先行研究の調査を、上記②の問いを考察する班が映像分析を始めました。仮の理論的枠組みが、どんどん根拠づけられ、確かなものになっていっています。7月5日・12日も、引き続き、それぞれの班で考察を進めています。
7月26日には、院生も参加して、それぞれの班の考察結果を発表しました。発表後の質疑応答のなかでは、次のような意見が出ました。
〇既存の理論的枠組みは、現実の経験や現象を分析するなかで(きちんと根拠があれば)批判的に継承・発展させることができる
〇みんなと議論すると、そのなかで自分のなかにはなかった新たな気づき、発見がある
〇探究をするには、言葉の定義をきちんとしておく必要がある
〇探究の主題だけではなく、その主題に関する先行研究を読むことで、より明快に探究を進めることができる
〇日常に生きる問い、他の人たちと共有できる問いをもつことができるようになった
などなど
このような過程を通して、先行研究の調査方法や映像(テキスト)分析の方法など、探究の仕方(すなわち、卒論の書き方)を学びました。前期を通して、みなさん、素晴らしい探究力を発揮してくれました! お疲れさまでした!!